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四日市豪雨の冠水路でジムニーの走破性能の高さが報道され話題に|災害に強い車ジムニー

三重県四日市市を襲った記録的な豪雨で、冠水した地下駐車場から力強く脱出する一台のジムニーの車載映像が話題になっています。なぜジムニーが災害時に圧倒的な強さを発揮するのかをあらためて解説します。昨今の異常気象による災害への備えと車選びの常識が変わるかもしれません!

1. 四日市を襲った豪雨と、一台のジムニーが見せた奇跡の脱出劇

2025年9月12日、三重県四日市市は観測史上稀に見る記録的な豪雨に見舞われました。短時間に猛烈な雨が降り注ぎ、市内の至る所で道路が冠水。特に中心市街地にある地下駐車場「くすの木パーキング」では、流れ込んだ雨水により多くの車が水に浸かり、身動きが取れなくなるという事態が発生しました。

そんな絶望的な光景の中、一台の車が力強く水をかき分け、無事に坂を駆け上がっていく様子が撮影され、SNSやニュースで大きな話題となったのです。その車こそ、スズキ・ジムニーでした。

1-1. 絶望的な状況からの脱出

SNSに投稿された映像には、茶色く濁った水が渦巻く駐車場内で、水位がタイヤの上部にまで達しているにもかかわらず、ジムニーがたくましく前進していく姿が映し出されています。周囲には、同じように水に浸かり、完全に動けなくなってしまったであろう普通乗用車が何台も見受けられます。

この映像は瞬く間に拡散され、「ジムニー最強伝説」「災害時にはやっぱりジムニー」といった驚きと称賛の声が数多く寄せられました。なぜ、他の車がなすすべもなく立ち往生する中で、ジムニーだけがこのような過酷な状況から生還できたのでしょうか。それは、ジムニーが持つ「本物のオフロード性能」に秘密が隠されているのです。

1-2. なぜ普通の車ではダメだったのか?

一般的な乗用車、例えばセダンやミニバン、あるいは街乗りを主眼に置いたSUV(スポーツ用多目的車)が冠水路に弱い理由は、その構造にあります。

まず、車高の低さが致命的です。車の心臓部であるエンジンは、空気を取り込んで燃料と混ぜ合わせることで動いています。空気の吸入口(エアインテーク)は通常、フロントグリルのあたりに設置されていますが、車高の低い車ではこの位置も低くなります。そのため、マフラーが水に浸かる程度の水深でも、エアインテークから水を吸い込んでしまう危険性が高まるのです。

エンジンが水を吸い込んでしまうと、「ウォーターハンマー現象」という深刻なトラブルを引き起こします。これは、非圧縮性である水を無理にピストンで圧縮しようとすることで、エンジン内部の部品(コンロッドなど)が破壊されてしまう現象です。こうなるとエンジンは一瞬で停止し、修理には莫大な費用がかかるか、最悪の場合は廃車となってしまいます。

四日市の駐車場で動けなくなっていた車たちも、おそらくはこのウォーターハンマー現象を起こしてしまったり、あるいは電気系統が水によってショートしてしまったりした可能性が非常に高いと考えられます。このような状況では、もはや自力での脱出は不可能なのです。

2. なぜジムニーは冠水路を走破できたのか?災害に強い5つの理由

それでは、なぜジムニーは絶望的な冠水路から脱出できたのでしょうか。その強さの秘密は、一朝一夕に作られたものではありません。半世紀以上にわたって受け継がれてきた、悪路走破のための設計思想そのものにあるのです。ここでは、ジムニーが災害、特に冠水に強い理由を5つのポイントに絞って徹底的に解説します。

2-1. 圧倒的な最低地上高と対障害角度

ジムニーが冠水路に強い最大の理由、それは圧倒的に高い最低地上高にあります。

2-1-1. 最低地上高がもたらす絶対的なアドバンテージ

最低地上高とは、地面から車のボディの一番低い部分までの距離のことを指します。この数値が高ければ高いほど、路面の障害物や轍(わだち)を乗り越えやすくなります。そして、冠水時においては、この高さがエンジンや電気系統といった重要部品を水から守るための、まさに生命線となるのです。

現行ジムニー(JB64W)の最低地上高は205mm。これは一般的な軽自動車(約150mm)やコンパクトカーと比べても際立って高く、街乗りSUVの中でもトップクラスの数値を誇ります。この「5cm」の差が、エアインテークやエンジン本体が水に浸かるかどうかの瀬戸際で、明暗を分けることになるわけです。

また、ラダーフレーム構造から来るエンジンのマウント位置やエアインテークの位置も比較的高い位置に取り付けられているため、水を吸いこみにくいという好条件がそろっています。

2-1-2. 水中の見えない障害物も乗り越える「対障害角度」

さらに、ジムニーは対障害角度と呼ばれる、オフロード性能を示す指標も極めて優秀です。

  • アプローチアングル:前輪からフロントバンパー先端までの角度。急な坂や障害物に進入する能力。

  • デパーチャーアングル:後輪からリアバンパー末端までの角度。坂や障害物を乗り越えて離脱する能力。

  • ランプブレークオーバーアングル:前輪と後輪の間、車体中央部の角度。凸状の地形を乗り越える能力。

これらの角度が大きいほど、バンパーや車体下部を障害物にぶつけることなく、凹凸の激しい地形を走破できます。冠水した道路では、水中にマンホールの蓋が開いていたり、側溝があったり、瓦礫が転がっていたりと、見えない危険が潜んでいます。ジムニーの優れた対障害角度は、こうした水中の障害物を乗り越えて進む際にも、非常に大きな安心感に繋がるのです。

2-2. シンプルかつ堅牢なラダーフレーム構造

現代のほとんどの乗用車が「モノコックボディ」という、ボディ全体で強度を確保する軽量な構造を採用しているのに対し、ジムニーは頑なに「ラダーフレーム構造」を守り続けています。

2-2-1. ラダーフレームとは何か?

ラダーフレームとは、その名の通り「梯子(はしご)」のような形をした強靭なフレーム(骨格)の上に、エンジンやサスペンション、そしてボディを載せる構造のことです。トラックや本格的なクロスカントリー4WD車に採用される伝統的な構造で、非常に頑丈なのが特徴です。

この構造の最大のメリットは、悪路からの強い衝撃や、ボディのねじれに対する圧倒的な耐久性です。モノコックボディが悪路で強い衝撃を受けると、ボディ全体が歪んでしまい、ドアが開かなくなるなどのトラブルが起こり得ます。しかし、ラダーフレーム構造では、強靭なフレームが衝撃のほとんどを受け止めてくれるため、上に載っているボディへの影響が少なく、過酷な状況下でも高い剛性を保ち続けることができるのです。

2-2-2. 災害時におけるラダーフレームの真価

冠水路だけでなく、地震でひび割れた道路や、土砂崩れで荒れた道など、災害時には想定外の悪路が出現します。こうした場面で、ラダーフレームの堅牢さは絶大な信頼性をもたらします。四日市の駐車場からの脱出の際も、水中の見えない段差などを乗り越える場面があったかもしれませんが、ジムニーのラダーフレームはそうした衝撃をものともせず、確実に走り抜けるための土台となっていたはずです。

2-3. 軽量コンパクトな車体が生む機動力

「大きい車の方が強そう」というイメージがあるかもしれませんが、こと災害時においては、ジムニーの軽量でコンパクトなボディが大きな武器となります。

2-3-1. 軽さがもたらす冠水路でのメリット

ジムニー(軽自動車モデル)の車両重量はわずか1,030kg~1,050kg。これは、2トンを超えるような大型SUVと比較すると半分程度の重さです。水が浮力を持つことを考えると、車体が軽ければ軽いほど、深い水の中を進む際の抵抗が少なく、また、ぬかるんだ地面にはまり込みにくいというメリットがあります。

水の抵抗を受け流しながら、力強く前進できた背景には、この軽さも貢献していたと言えるでしょう。

2-3-2. 狭い場所でも活躍するコンパクトさと小回り性能

四日市の「くすの木パーキング」のような地下駐車場は、柱が多く、通路も決して広くはありません。災害時には、他の車が障害物となって道を塞いでしまうことも考えられます。

そんな時、ジムニーのコンパクトなボディと、最小回転半径4.8mという軽自動車ならではの優れた小回り性能が真価を発揮します。大型のオフロード車では切り返しが必要な狭い場所でも、ジムニーならスイスイと通り抜け、活路を見出すことが可能です。この機動力の高さは、都市型の災害において特に重要な要素となります。

2-4. 信頼性の高いパートタイム4WDシステム

ジムニーの走破性を支える核となるのが、パートタイム4WDシステムです。

2-4-1. パートタイム4WDの仕組みと強み

これは、通常は後輪駆動(2WD)で走行し、必要な時だけトランスファーレバー(またはスイッチ)を操作して、運転手が意図的に四輪駆動(4WD)に切り替えるシステムです。

4WDには、さらに「4H(高速)」と「4L(低速)」のモードがあります。特に「4L」モードは、エンジンの駆動力を通常の約2倍に高めてタイヤに伝えることができる、いわばジムニーの「奥の手」です。急な登坂や、タイヤが空転してしまうぬかるみ、そして深い水中から脱出する際に、路面をがっちりと掴むような、極めて強力な駆動力を発揮します。

2-4-2. 冠水路のような滑りやすい路面での絶大な効果

水で満たされた路面は非常に滑りやすく、2WDではタイヤが空転してしまい、前に進む力を失いがちです。しかし、ジムニーのパートタイム4WDは、前後のタイヤを直結して回転させるため、空転を抑え、少しでもグリップ(摩擦力)のある路面を探しながら、車体を力強く前へ前へと押し出すことができます。

このシンプルで確実な4WDシステムこそが、絶望的な状況下で「最後のひと押し」を生み出す、信頼のメカニズムなのです。

2-5. 考え抜かれた吸排気口のレイアウト

前述の通り、冠水路で最も避けなければならないのが、エンジンが水を吸い込んでしまうことです。ジムニーは、その設計段階から悪路走破、特に渡河(川を渡ること)を想定しているため、吸排気口のレイアウトにも工夫が凝らされています。

エアインテークは可能な限り高い位置に配置され、エンジンルーム内の補器類も水の影響を受けにくいよう設計されています。もちろん、どんな水深でも大丈夫というわけではありませんが、一般的な乗用車と比較して、より深い水深まで耐えられるマージンが確保されているのです。

これら5つの理由が複合的に絡み合うことで、ジムニーは四日市の豪雨のような過酷な状況下でも、驚異的な走破性を発揮することができたのです。

3. ジムニーだけじゃない?冠水に強い車の共通点

四日市の一件でジムニーの性能が注目されましたが、もちろん、冠水路のような悪路に強い車は他にも存在します。それらの車に共通しているのは、ジムニーと同じく「本格的なクロスカントリー4WD(クロカン4WD)」というジャンルに属している点です。

3-1. 本格クロカン4WDの優位性

トヨタ ランドクルーザーやスズキ ジムニーシエラ(ジムニーの普通車版)、ジープ ラングラーといった車種がこれに該当します。彼らは、街乗り向けのSUVとは一線を画す、以下のような共通の特徴を持っています。

  • ラダーフレーム構造による高い堅牢性
  • 高い最低地上高と優れた対障害角度
  • 副変速機(ローレンジ)付きの4WDシステム
  • 悪路走破を前提としたサスペンション構造

これらの特徴は、すべて「道なき道を行く」ために備えられたものです。そのため、舗装路が牙をむく災害時において、その真価が発揮されるのです。

3-2. 「SUV」と「クロカン4WD」の決定的な違い

最近人気のSUVの多くは、見た目はオフロード車風でも、その中身は乗用車に近いモノコックボディを採用しています。乗り心地や燃費、快適性を重視した設計であり、あくまで「悪路『も』走れる」という位置づけです。

一方で、ジムニーのようなクロカン4WDは、「悪路『を』走る」ために作られています。快適性や燃費をある程度犠牲にしてでも、走破性と耐久性を最優先に設計されているのです。この設計思想の根本的な違いが、いざという時のパフォーマンスの差となって現れます。

もしあなたが災害への備えを重視して車を選ぶのであれば、見た目だけでなく、その車の骨格や駆動方式といった「本質」に目を向けることが非常に重要です。

4. もし冠水に遭遇したら?知っておくべき最低限の対処法

ジムニーのような車であっても、冠水路の走行は決して安全ではありません。万が一、運転中に冠水に遭遇してしまった場合に備え、正しい知識と対処法を知っておくことが命を守ることに繋がります。

4-1. 冠水路を走行する際の絶対的な注意点

やむを得ず冠水路を走行しなければならない場合は、以下の点を必ず守ってください。

  • 水深の確認:車のマフラーが水に浸かる(タイヤの半分くらい)水深が、走行できる限界の目安です。それ以上深い場合は、絶対に進入してはいけません。

  • 速度を落とす:時速10km以下のゆっくりとした速度で、波を立てないように走行します。速度を出すと、ウォーターハンマー現象のリスクが高まります。

  • 走行ライン:道路の中央は比較的地盤が高くなっていることが多いです。対向車に注意しながら、なるべく中央寄りを走行しましょう。

  • 停止しない:一度停止すると、マフラーから水が逆流し、エンジンが停止する可能性があります。一定の速度で走り抜けることが重要です。

4-2. 車が水没してしまった場合の行動

もし走行中にエンジンが止まったり、車が動けなくなったりした場合は、ためらわずに車を捨てて避難してください。

  • エンジンは絶対に再始動しない:一度止まったエンジンを無理にかけると、被害がさらに拡大します。

  • ドアや窓を開けて脱出:水位が上がると水圧でドアが開かなくなることがあります。すぐに開けて、安全な高い場所へ避難しましょう。

  • 命が最優先:車はあくまで財産の一つです。自分の命を守ることを最優先に行動してください。

冠水した車は、見た目が綺麗でもエンジンや電気系統に深刻なダメージを負っている可能性があります。走行可能であっても、必ず専門の整備工場で点検を受けるようにしましょう。また、車両保険には水害に対応できるプランもありますので、ご自身の保険内容を一度確認しておくことをお勧めします。

5. 災害への「備え」としてのジムニーという選択

今回の四日市の事例は、ジムニーが単なる趣味性の高いオフロード車ではなく、私たちの命や生活を守るための「ツール」にもなり得ることを強く示唆しています。

5-1. 日常と非日常を両立する希有な存在

ジムニーの魅力は、そのコンパクトなサイズと軽自動車ならではの維持費の安さから、普段の買い物や通勤といった日常使いも全く苦にならない点です。それでいて、一度牙をむいた自然の前では、どんな高級車にも真似のできない圧倒的な走破性で、非日常の危機から私たちを救い出してくれる可能性を秘めています。

この「日常」と「非日常」を高いレベルで両立している点こそ、ジムニーが半世紀以上にわたって世界中の人々に愛され続ける最大の理由なのかもしれません。

5-2. 納期は長いが、待つ価値のある一台

現在、ジムニーおよびジムニーシエラは世界的な人気から、注文しても納車まで1年以上かかるという状況が続いています。しかし、その長い待ち時間も、いざという時に自分や家族の「最後の砦」となり得る性能を手に入れるための期間だと考えれば、十分に価値のある投資だと言えるのではないでしょうか。

今回の四日市の出来事を見て、「次の車はジムニーにしよう」と心に決めた方も少なくないはずです。それは、単なる憧れだけでなく、災害が日常と隣り合わせにある現代日本において、非常に合理的で賢明な選択の一つなのです。

6. まとめ

四日市市の豪雨災害で見せたジムニーの冠水路走破劇は、SNSを通じて多くの人々に衝撃を与えました。しかし、その驚異的な性能は決して偶然の産物ではありません。

  • 高い最低地上高と優れた対障害角度
  • 堅牢なラダーフレーム構造
  • 軽量コンパクトな車体
  • 信頼性の高いパートタイム4WD
  • 悪路走破を前提とした吸排気口の設計

これらすべてが、半世紀以上にわたるスズキの悪路走pahへのこだわりと技術の結晶なのです。この記事を通じて、ジムニーがなぜ災害に強いのか、その本質的な理由をご理解いただけたなら幸いです。